2016年12月13日火曜日

経営と会計~稲盛和夫の実学より~

私が税理士事務所で働き始めた頃
これまで学んだ会計の知識を教科書通りに伝えても、担当している経営者の方たちにはほとんど興味をもってもらえないというのが大きな悩みでした。「簿記」の知識はあっても、「経営」がわからなければ、日々真剣に商売に取り組んでいる経営者が本当はどんな情報を必要としているのかを理解することはできない。思い悩み、古今東西の経営に関する本をひたすら読んでいたときに出会ったのが稲盛和夫氏の「実学」です。

稲盛氏は京セラを創業した当時は経営者としての経験もなく、この先会社をどう経営していけばいいのか夜も寝られないほど思い悩み、その結果、「原理原則、つまり、人間として正しいことにもとづいて経営していこう」と決心しました。また、会計についても常にに「本質」を考えるようになり、自分が予想したものと決算の数字が食い違う場合はすぐに経理担当者に詳しく説明を求めました。


「私が知りたかったのは、会計や税務の教科書的な説明ではなく、会計の本質とそこに働く原理なのだが、経理の担当者からは、そのような答えを往々にして得ることができなかった。だから私は『会計的にはこのようになる』と言われても、『それはなぜか?』と納得できるまで質問を重ねていた。」


会計学で最初に学ぶのが企業会計の具体的な行動規範である「企業会計原則」なのですが、その最高規範である「真実性の原則」では、企業会計は会社の財政状態・経営成績に関して真実な報告を提供するものでなければならないと要請しています。日々の取引に漏れ・誤りがないか、売上と原価が対応して計上されているか、資金・商品等の財産の実際有り高と帳簿の残高が合っているか等を精査して作成された数字は、会社のありのままを表す「真実な報告」となります。しかし、実際の現場で、限られた人員と時間の中で、これらの作業を完璧に行うことは簡単ではありません。何よりも経営者が熱意をもって担当者に「真実な報告」を求めていかなければ実現はしません。


「われわれを取り巻く世界は、一見複雑に見えるが、本来原理原則にもとづいた『シンプル』なものが投影されて複雑に映し出されているものでしかない。これは企業経営でも同じである。会計の分野では、複雑そうに見える会社経営の実態を数字によってきわめて簡単に表現することによって、その本当の姿を映し出そうとしている。」


会社の現状をありのままに表す真実の数字は、どんな経営アドバイスよりも強烈に心に刺さります。だからこそ、これからどうしたらいいのかを考える指針となります。この本を読んで以降、経営者に「数字が表す真実の姿」を伝えるのが私の仕事となりました。

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